近年「幸せ」とは何か?について心理学の領域で
研究が進んできていることをご存知でしょうか?
心理学といえば「ヒステリー」「うつ」「トラウマ」など病気を治すために研究が
されてきました。
しかし近年、幸せとは何か?人間の心身の良い状態とは何か?という側面に
科学的なメスが入れられるようになってきたのです。
宗教やオカルトではなく「科学的に」幸せになるヒントがわかり始めた。
これは画期的ではないでしょうか?
この記事では
- 「ポジティブ心理学」の全体像と概念を知りたい
- 幸せになるためのヒントを見つけたい
- という方に向けて「ポジティブ心理学」とその構成要素について詳しく解説していきます!
ポジティブ心理学とは1998年に、アメリカ心理学学会の会長でペンシルヴァニア大学の
マーティン・セリグマンが提唱したことから始まりました。
比較的新しい概念といえます。
どのような背景がありポジティブ心理学がうまれたのでしょうか?
彼の主張は20世紀の心理学が、心のネガティブな側面
(例えば病気を治す)に偏りすぎていたため
もうすこしポジティブな側面(どうすればもっとよく生きられるか?)
に焦点を当てた研究を増やそう!と提案したのです。
ポジティブ心理学とはあたらしい学問というよりも
人間の心理のポジティブな面の研究を増やしていこうという運動とも言えます。
セリグマン自身が人間の心理のポジティブな面を積極的に研究をしていたためだといわれています。
彼が研究していたのは学習的無気力という状態でした。
学習性無気力とは
自分で解決できないという経験を学習してしまうことで、実際に対処可能な場面でも
挑戦できなくなってしまうことを指します。
セリグマンはそれを克服するために「楽観性の学習」を提案しました。
要するに「楽しい方が、よく学べるやん?」という提案です。
たしかに解けない問題にチャレンジしたり、無理やり指導されたりするより
褒められたり、少しずつできてくる達成感を感じたり、
夢中になって好きなことに没頭したほうが
身につくことが多いのは、私たちも経験するところです。
ポジティブな面にアプローチするというのはありそうでなかった発想です
このようにポジティブ心理学の実践として、
精神医療領域ではポジティブ心理療法
教育・学校においてはポジティブ教育
職場・産業領域ではポジティブヘルスと呼ばれ活用されてきています。
具体的にポジティブ心理学にはどのような概念があるのでしょう?
いかに、代表的な15の概念について説明していきます。
ポジティブ心理学とはどのような学問領域かが掴めると思います。
①ポジティブ感情
ネガティブな感情をもたらす経験は「ストレス」として研究されてきており
下記のような感情です。
・恐怖
・怒り
・嫌悪
・落ち込み
ポジティブ感情は下記のような
・喜び
・誇り
・満足
・興味
・愛情
などの総称です。
有名な研究にはフレドリクソンによる
「ポジティブ感情の拡張-形成理論」があります。
このようにネガティブな感情をどのように減らすかという研究だけでなく
ポジティブな感情がどのように形成されていくのかという側面に焦点が当たってきています。
まさに発想の転換と言えるのではないでしょうか?
②ウェルビーイング
【ウェルビーイング(Well-being)】とは「良好な状態」「良い在り方」のことを指し
健康・幸せという概念で用いられていますが、明確な定義は状況によってあいまいのようです。
医学系では「身体的健康」
基礎心理系では「幸せ」「良好な心の状態」「精神的健康」といったニュアンスです。
世界保健機関WHO憲章における健康の定義においても、ウェルビーイングという言葉が用いられています。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease of infirmity
Well-beingを測定する心理尺度も開発されており
代表的なものとして下記のものがあります。
・SWLS
・SHS
・感情的幸福
③ストレングス
【ストレングス】とは「強み」すなわち人のポジティブな個性のことです。
ストレングスは下記の2つに分類されています
①個人内で発揮されるストレングス:その人が単独で力を発揮するポジティブな特性のこと
例えば「楽観性」というストレングスをもっていると
たとえ病気になったとしても「今できることをしっかりやろう」と健康に近づける行動を
ドりやすかったりします。
②個人間で発揮されるストレングス:対人関係の維持増進によって効果が発揮されるポジティブな特性のこと
例えば「感謝」のように他人への接し方のようなものです。「感謝」ができるというストレングスは心身の健康の予防、維持、増進に良い影響を与えることが研究されています。
ストレングスを評価する尺度として下記のようなものがあります。
・VIA-IS
・Clifton Strengths Finder
・Realise2
・Virtue Project
・日本版生き方原則調査票
・ストレングス同定尺度
・日本語版ストレングス活用尺度
自分の強みを知り、それを積極的に活用することで心身にさまざまな恩恵があることが研究されていっます。
良いところは悪いところよりも気づきにくいので、より積極的に見つけていく必要があるのです。
④親切心
【親切(kindness)】とは以下のように定義されています。
困ったり求めをもつ他者に対して、たまたまその場に居合わすものが、ささやかな手助けをすること
近藤良樹(2004)
親切心(kindness)とはそのような親切を行おうとする気持ちのことだといえますが
研究者によって解釈が異なったり、文化的な違いがあるので
結構あいまいな概念のようです。
Canterら(2017)は親切心の中核は
・良識のある寛大さ:互いに許しあいながら生きること
・共感的な応答性:他人の気持ちを察する感情的な反応
・同義に基づく行為:他者への道徳的で愛他的な行動
にあると述べています。
親切をすると自分も相手も笑顔になれるので
とっても素敵ですよね。
Hamilton(2018)によると下記の効果があると報告されています。
- 自身の幸福感が高まる
- 心臓や血管を健康に保つ
- 身体の老化を遅らせる
- 対人関係を良好にする
- 親切が伝染する
⑤マインドフルネス
【マインドフルネス】とは
いまここでの瞬間に注意を払いながら、是非を決めずに、受け入れとともにある気づき
で今この瞬間、瞬間に何の解釈もせず、ただただ注意を集中させることです。
もともと仏教の「瞑想」の技法をマサチューセッツ大学のカバットジン教授が
医療現場に応用するものとして、マインドフルネスストレス逓減法(MBSR)を開発したことに
はじまります。
現在ではマインドフルネスを応用した第三世代の認知行動療法として
さまざまな心理療法が開発され
その効果は慢性疼痛、うつ病、不安などさまざまな疾患に対しても効果が示されています。
たとえ病気でなかったとしても
・日々のストレスや人生を上手に乗り切るために
・仕事の燃え尽き症候群を予防するために
・認知機能を向上させるために
も有効だと報告されています。
⑥セルフ・コンパッション
【セルフ・コンパッション】とはアメリカの心理学者ネフが提唱した概念です。
【コンパッション】は慈悲心という意味で、仏教由来の概念です。
仏教の教えに「慈悲喜捨(じひきしゃ)」というものがそれにあたります。
慈:自分や他者の幸せを願う気持ち
悲:苦しんでいる他者を助けてあげたい気持ち
喜:他者の幸せを「よかった」と共感できる気持ち
捨:あらゆる生命をあるがままに受け入れて平等に扱う気持ち
仏教では悩みや苦しみを消すためには執着を捨てて「あるがまま」でいようとする
アプローチをとります。
このようなセルフコンパッションも仏教の概念を科学的に
実証しようとする流れですね。
セルフコンパッションには3つの側面があります。
①自分への優しさを向ける
②共通の人間性を認識する
③マインドフルネス
このような心の状態を目指そうにも
「くっそ~!今日も上司に嫌味を言われたぁぁ・・・」という
状況では仏様のようなきもちにはなれませんよね(笑)
そこで気持ちを落ち着ける【マインドフルネス】を組み合わせた
マインドフルネス・セルフ・コンパッションという方法が提唱されており
抑うつ・不安を軽減し、人生の満足感をたかめることが示唆されています。
仏教的な方法が科学的に実証されているのはおもしろいところですね!
⑦レジリエンス
【レジリエンス】とは「病気に陥らせる困難な状況ひいては病気そのものを跳ね返す復元力・回復力」
「跳ね返り」「弾性」「回復力」という意味で「ストレス」や「脆弱性」の対立概念です。
ただしその定義は一定の合意が得られていないそうです。
宇宙飛行士の野口聡一さんが搭乗したアメリカスペースx社の宇宙船「クルードラゴン」の2号機の愛称に「レジリエンス」と名付けられていました。
なんか格好いい名前ですよね。
ポジティブ心理学の発想では「ストレスを減らす」というマイナスの発想ではなく
それを跳ね返す力を鍛えて鍛えるというポジティブな発想ができるところが面白いと思います。
レジリエンス研究は
ウェルナーがハワイのカウアイ島で生まれた新生児を40年間にもわたって
追跡調査した研究から始まります。
劣悪な環境にもかかわらず健全に発育する子供がいることが明らかになったのです。
彼らの特徴として下記のものがあったそうです。
・社会性やコミュニケーション能力がある
・自分と周りの出来事との関連性を適切に把握できている
・家族や親戚など重要な人たちと情緒的なつながりをもっている
・地域や仲間、学校などの健全な外部サポート資源を有効に利用する力を持っている
「親ガチャ」などという言葉が世間を騒がせていますが
レジリエンスという概念から見ると、決して環境の要因だけでもなさそうですよね。
そして1990年代にはレジリエンスはどうやら後天的な能力だということが
研究で分かってきたのです。
・誰もが経験する日常の適応能力
・時間とともに発達変化する能力
・ストレスに対処するための学習可能な能力
ロールプレイングゲームの勇者のように、困難を切り抜ける力を高めようという
【レジリエンス】は高められるというのは心強いです。
レジリエンスに影響する因子には下記のものが指摘されています。(Leeら 2013)
・人生満足感
・楽観性
・ポジティブ感情
・自己効力感
・自尊感情
・ソーシャルサポート
【レジリエンス】の概念は医療や心理学だけでなく人文科学(人間の文化を調べる)や生態学(生物と環境や生物どうしの影響を調べる)にも広がる概念になってきています。
⑧エンゲイジメント
【エンゲイジメント】とは
職場のメンタルヘルスの新しい概念としての【ワーク・エンゲイジメント】として研究されて
きています。
【ワーク・エンゲイジメント】とは
仕事に関連するポジティブで充実した心理状態であり、活力、熱意、没頭によって特徴づけられる。
特定の対象、出来事、個人、行動などにむけられた一時的な状態ではなく、仕事にむけられた
持続的かつ全般的な感情と認知である。(ジャウフエリら,2004)
つまり仕事に誇りを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て生き生きとしている状態といえます。
ワーク・エンゲイジメントを高める要因には
・仕事の資源
①ストレッサーやそれに起因する身体的コストの低減
②目標達成の促進
③個人の成長や発達を促進する機能を有する物理的・社会的・組織的要因
・個人の資源
①自分を取り巻く環境を上手にコントロールできる能力
②レジリエンスと関連した肯定的な自己評価
ストレスをうまくいなしながら、成長を実感でき、「自分の能力がますます高まっている!」と
感じられる職場が理想でしょうか。
⑨尊敬
【尊敬】には3つあるといわれています
(武藤,2008)
①義務尊敬:社会道徳的な義務的な尊敬
上司を敬ったり、年配の方を敬ったりすること。
まあ社会的な常識として「他人を大切にしましょう」みたいな感覚です。
②感情的態度尊敬:自分が一目置く特定の優れた他者への持続的で一方的な尊敬の感情
自分の尊敬する有名人や先生を尊敬すること。
いわゆるリスペクトみたいな感じでしょうか。
③感情状態尊敬:他者の優れた性質に感嘆し称賛するときに生じる一過性の感情状態
うわぁ~すごい~!と感動するときのような状態ですかね。
このような【尊敬】は自己の成長・発達や他者との関係性構築・維持・構築において
ポジティブな機能を果たす可能性があるとして研究が行われています。
たしかに優れた人をリスペクトしたり、お互いに敬意を示す関係は
素敵ですよね。
⑩感謝
【感謝】とは
「個人に何か良いことが起きたときに、そこで得られた利益は他のおかげであると、
個人が気づくことで生じる感情】(Watkins,2007)
おかげ様で。という感情ですかね。
このような感謝感情をもつことはウェルビーイングの促進や人間関係を良好に保つのに役立つことが
示唆されています。
しかし文化によって差があり
日本においては感謝されることが、逆に心理的な負い目「申し訳ない」という気持ちが芽生え
感謝の効果が得られないという報告もあります。
欧米人:「おっ、ありがとう。うれしい」
日本人:「悪いなぁ・・・なにかお返ししなくちゃ・・・」
こんな感じですかね。
いずれにせよ「感謝」は人間関係を良好に保つために大切なポジティブな感情です。
お中元やお歳暮というのはまさに「感謝の伝えあい」であり
人間関係を良好に保っている効果があるかもしれません。
⑪ゆるし
【ゆるし(Forgiveness)】は
「自己および他者の被害や罪に対する否定的な内的反応を低減させ
中性的または肯定的な内的反応へ変容させること」(沼田,2019)
とはいえ「ゆるせない」という気持ちはなかなか抑えることが難しいですが
「ゆるし」が生じるほど心身の健康に良い影響がみられることが分かっています。
「ゆるし」には、ゆるしの理論が存在し
それに基づく介入モデルによって、トラウマをもつ患者にたいする心理療法がおこなわれています。
⑫希望
【希望(hope)】とは将来に対する明るい見通しのことです。
希望がなければ、がんばるのってちょっと難しいですよね
希望には
スナイダーの希望理論が存在します。
希望理論では希望とは下記の2つから構成されると説明されています。
①道筋:望む未来にたどり着くプロセスを見出すことができるという感覚
②主動感:自分が木法達成の道筋をたどることができるという感覚
要するに「こうすればできそうやなぁ・・・うん。きっとできるはず!」という状態ですね。
希望を抱くことの効果としては
・学業成績が良好になりやすい
・運動パフォーマンスを発揮しやすい
・健康リスクの呼ぶを促進する
・疾病や障害への対処行動を促進する
・精神的健康を向上させる
希望を抱くことは私たちの成長や健康にポジティブに働くことが示唆されています。
「やばい!」という口ぐせも「なんとかなるだろう。私にはできる」と意識的考えることが
大事そうですね。
⑬フロー
【フロー(flow)】とは「無我夢中」「一心不乱」な状態です。
テレビゲームにハマってしまい気が付いたら朝。
みたいな状態でしょうか。
実業家であるホリエモンも熱中することの重要性を語っており
彼がプログラミングを学習するときも、それに「ハマった」からだと説明しています。
フロー状態になるには「挑戦」と「能力」がちょうどよい関係になっていることが大切です。
テレビゲームでも最初から難しい敵と戦っていたら嫌になりますし、逆に簡単すぎても
面白くないわけです。
ゲームのスキルが高まるにつれて、少しずつちょうどよい敵が現れるように難易度が
設計されているのです。
フローのメリットには
・ストレス反応が軽減する
・創造性を高める
・人間関係がよくなる
・自分らしさを感じられるようになる
フローな状態が、次のフローを呼び起こし・・・
リハビリテーションや教育においては能力に応じて課題の難易度や環境を整え
フロー状態に導くことがその効果を高めることにつながります。
⑭意味
【意味】
自分と他者や物事や世界などを、一貫した形で関係づけようとする心の働き
意味はポジティブ心理学の領域において
最も重要な要素の一つとされています。
私たちは世界をありのままに見ているのではなく
興味や関心に応じて、記憶を元に構成された世界を見ています。
そのため私たちが生きていることや行っていることに「意味がある」と感じられているかどうか
すなわち人生に意味や目的を持つ効果についてポジティブ心理学において研究されています。
意味を追っていることでストレスフルな状態でも身体症状が出にくいことがわかっています。
⑮心的外傷後成長
【心理的外傷後成長:PTG】とはアメリカの心理学者カルフーンとテデスキによって提唱され
危機的な出来事や困難な経験との精神的なもがきの結果生じる、ポジティブな心理的変容の体験
と定義されています。
人間生きていれば辛いことを経験するものです。
しかしあの経験があったからこそ今がある。
そうのような体験は皆さんもありませんか?
PTGには下記の5領域があります。
1、他者との関係:雨降って地固まる。のような関係
2、新たな可能性:病気になったおかげで食生活を改めるきっかけになった。など
3、人間としての強さ:辛い経験を乗り越えて逆に自信につながるような場合
4、精神性的かつ実存的な変容:ご先祖様が守ってくれているように感じられるようになった。など
5、人生への感謝:1日1日を大切にするようになった
ポジティブ心理学では、単純に強いストレスや辛い体験というネガティブな反応にとどまらず
それらから得られるポジティブな側面を研究する
このような視点は大変興味深い点だと思います。
まとめ
いかがだったでしょうか?
ポジティブ心理学の良いところは、
ダメなところを治すという発想だけでなく、
良いところを伸ばしていけばええやん?
幸福について新たなアプローチを提案しているところです。
どうやっても環境が変えられない。物理的な制約があったとしても
自分の心側をコントロールしていける。
看護やリハビリテーションの分野では大いなる武器になるのではないでしょうか?
さらにはその原点が仏教に通じているところもユニークだと思います。
ぜひ活用していただき、
一度しかない人生、ますますQOLを高めていきましょう。
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